≫ 第7回ヤマト科学賞 受賞者
青山 一真(あおやま かずま)氏
東京大学 情報理工学系研究科 助教
(30歳)
学歴
2012年 |
岡山県立大学 情報工学部スポーツシステム工学科 卒業 |
2014年 |
大阪大学 情報科学研究科 博士前期課程修了 |
2016年 |
大阪大学 情報科学研究科 博士後期課程修了(早期修了) |
職歴
2014年 - 2016年 |
日本学術振興会 特別研究員(DC1) |
2016年 - 2017年 |
日本学術振興会 特別研究員(PD) |
2017年 - 2018年 |
明治大学 総合数理学部 助教 |
2018年4月 - 6月 |
東京大学 情報理工学系研究科 特任研究員 |
2018年7月 - 9月 |
東京大学 情報理工学系研究科 特任助教 |
2018年10月 - 現在 |
東京大学 情報理工学系研究科 助教 |
2019年10月 - 現在 |
JSTさきがけ 研究員 |
受賞
2014年 |
大阪大学情報科学研究科賞 |
2015年 |
日本バーチャルリアリティ学会学術奨励賞 |
2016年 |
日本バーチャルリアリティ学会論文賞 |
2017年 |
Innovative Technologies + 2017 採択技術 |
2018年 |
嵩賞 |
2019年 |
Innovative Technologies + 2019 採択技術 |
受賞理由
バーチャルリアリティ(VR)技術は情報科学の最先端分野として、社会の注目を集めている。この技術の登場は1989年にさかのぼるが、1990年代の第1世代VR技術を経て、現在は第2世代のVR技術である。今のところ、VR技術の主流は、20世紀型の計算機技術に基づいたものである。しかしながら、感覚の技術とも呼ばれるVRは、情報科学のみならず生命科学の領域とより強く結びついていくことが求められている。
青山一真氏は神経とコンピュータを非侵襲ながら直接的に接続する事で様々な感覚と身体応答ひいては体験を作り出す、既存のVR技術とは一線を画す「第3世代VR技術」の研究者である。脳とコンピュータを接続する技術としては、ブレイン・コンピュータインタフェース(BCI)が神経科学領域で研究されているが、青山氏が開拓する領域は、脳から身体表面近傍に伸びている末梢神経系を経皮電気刺激によって刺激するニューロ・コンピュータインタフェース(NCI)技術である。BCIが人の意図を読み取る「センシング型技術」であるのに対し、青山氏のNCIは、人の反射応答を引き起こす「ディスプレイ型技術」である。
青山氏は神経に対して電気刺激が作用する機序に対する独自の仮説を提唱し、その実証を行う基礎研究を実施してきた。その基礎研究の知見により、視覚はもちろんの事、触覚、味覚、嗅覚、平衡感覚等の感覚器に加え、骨格筋や平滑筋収縮を引き起こす運動効果器、さらには唾液、涙液、汗液などの分泌系効果器等、人の様々な身体機能に対して効果を及ぼすNCI技術を実現し、現在までに多くの革新的成果を挙げている。例えば、平衡感覚を作り出すNCI技術では、左右・前後・上下を含んだ多次元な前庭感覚提示手法を世界にさきがけて実現しており、その成果は国内外の学術論文誌に多数掲載され、多くの賞を授与されている。また、ごく最近には漿液分泌を操作するNCI技術の研究開発に成功し、唾液分泌を促進する技術や涙液分泌を引き起こす技術にも研究領域を拡大している。
さらに、青山氏は、以上のような基礎研究にとどまらず、VRコンテンツと連動させたデモ展示や、NCI技術のビジネスモデル設計とピッチコンテストでの受賞など、社会実装を見据えた活動も積極的に行ってきている。今後、NCI技術は福祉やテレワークなどVR以外にも多岐に渡る社会応用が期待されるであろう。具体的には、涙や唾液分泌の促進は嚥下円滑化や角膜保護等の福祉応用が可能だろうし、もっと一般的には、「泣いて見るテレビ」など、感情に作用する情動誘発メディア等の新たなメディア開発にも繋がっていくであろう。
以上、青山氏のNCI技術は既存のVR体験を超越した未来のVR技術として注目され始めている。NCIは第1世代から約30年間の第2世代、さらにこれから先30年間に亘る第3世代VRを力強く支えるであろう技術の一つである。NCIが情報科学と生命科学の新しい架け橋を構築することの期待も添えて、第7回ヤマト科学賞に推薦するものである。
※受賞者の所属、肩書および年齢は2020年3月18日時点のものです。