ヤマト科学賞選考委員会は、このたび「第11回ヤマト科学賞」の受賞者を決定致しました。
本賞は、ヤマト科学創業125周年を記念してライフサイエンス、マテリアルサイエンス、インフォメーションサイエンス及びそれらの融合分野を中心に、独創性、創造性に富む、気鋭の研究者を顕彰し、人類に夢と希望をもたらす科学技術の次世代リーダーとしての活躍を支援することを目的として2013年9月に設立され2014年3月に「第1回ヤマト科学賞」を発表致しました。
「第11回ヤマト科学賞」は昨年9月から12月末までの4ヵ月間に多数のご応募をいただき、ヤマト科学賞選考委員会にて厳正かつ公正な審査を行いました。その結果、今日の情報通信社会を支える技術である暗号技術の安全性の証明に向けて、既存の証明手法の限界を突破する先駆的な研究成果を挙げ、国際的に高い評価を受けている 国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 准教授 平原 秀一(ひらはら しゅういち)氏を受賞者に決定致しました。
委員長 | ヤマト科学株式会社 代表取締役社長 | 森川 智 |
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委員 | 東京大学 先端科学技術研究センター がん・代謝プロジェクトリーダー |
児玉 龍彦 |
委員 | 国立研究開発法人 科学技術振興機構 理事長 | 橋本 和仁 |
委員 | 東京大学 先端科学技術研究センター サービスVRプロジェクトリーダー 東京大学名誉教授 |
廣瀬 通孝 |
記者会見はヤマト科学本社にて開催いたしました。
平原 秀一(ひらはら しゅういち)氏
国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 准教授
1992年2月生まれ(32歳)
受賞テーマ 「暗号の安全性の証明に向けた計算量理論の先駆的研究」
2019年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻博士後期課程修了 |
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2021年4月 - 2021年9月 | 名古屋大学 大学院多元数理科学研究科 非常勤講師 |
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2019年4月 − 2022年3月 | 国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 助教 |
2022年9月 - 2022年12月 | University of Warwick, Computer Science Department, Research Fellow |
2022年4月 - 現在 | 国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 准教授 |
2016年1月 | LA/EATCS 学生発表論文賞, オラクルとしての回路最小化問題の限界 |
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2018年3月 | COMP-ELC学生シンポジウム 最優秀論文賞, OR-AND-XOR回路に対する回路最小化問題のNP完全性, 電子情報通信学会 |
2018年10月 | Machtey Award, Non-black-box Worst-case to Average-case Reductions within NP, IEEE Symposium on Foundations of Computer Science (FOCS) |
2019年3月 | 学術奨励賞, OR-AND-XOR回路に対する回路最小化問題のNP完全性, 電子情報通信学会 |
2022年2月 | 船井研究奨励賞, メタ計算量による平均時計算量の革新的な解析手法, 船井情報科学振興財団 |
2022年12月 | Complexity result of the year 2022, NP-Hardness of Learning Programs and Partial MCSP, Shuichi Hirahara |
2023年1月 | マイクロソフト情報学研究賞, 「メタ計算量に基づく平均時計算量の研究」 |
平原 秀一氏は、暗号技術の根幹にかかわる計算量理論を中心に研究を行っている新進気鋭の研究者である。
昨今のメタバースブームに象徴されるように、我々の活動は着実にデジタル空間へと歩を進めている。デジタル空間が安定かつ安全であるためには、情報セキュリティに関する基礎的な研究は非常に重要であり、とりわけ、その中核を占めるのが暗号の研究である。
現在よく使われているRSA(公開鍵)暗号の安全性は素因数分解の計算困難性(素因数の掛け算は容易だが、素因数分解自体は難しい)に基づいている。しかし、素因数分解の計算困難性はまだ証明されておらず、単に予想されているだけである。この予想の特殊な場合が「P≠NP予想」であり、これを平たく言えば「解の正しさを簡単に検証できるが、 多項式時間では解を計算できない問題が存在するであろう」という予想である。RSA暗号が安全であるためには、素因数分解が効率的に解けない必要があり、特に「P≠NP 予想」を解決する必要があるのである。残念ながら「P≠NP予想」はミレニアム懸賞問題となっているほど困難な問題である。また、解読不可能な暗号の構成には、NPの最悪時と平均時計算量が同値である必要がある。つまり、暗号をランダムな鍵にて解読する際に、その計算にかかる時間も議論する必要がある。
このような背景のもと、平原氏はこれらの難問を解決するためのいくつかのハードルの突破に成功している。具体的には、回路最小化問題と暗号の安全性についての関連性に独自の着眼点を持ち、非ブラックボックス帰着手法を世界に先駆けて開発することで、「回路最小化問題のNP完全性が解決できれば、NPの最悪時・平均時計算量が同値である」ということを証明した。さらに、回路最小化問題の一般化である部分回路最小化問題のNP完全性を解決している。
これらの成果に対して、理論計算機科学におけるトップカンファレンスであるFOCSにて、日本人初となる「Machtey Award」の受賞、その年の最も良い計算量理論の成果に贈られる「Complexity result of the year 2022」の受賞など、平原氏は国内外でその研究活動を高く評価されている。
以上、計算量理論の分野で顕著な業績を継続的に挙げてきている平原氏は、人類に夢と希望をもたらす科学技術の次世代リーダーとしての活躍を支援することを目的とした、ヤマト科学賞の受賞者としてふさわしい人物である。よって、第11回ヤマト科学賞受賞者に選定した。
※1 ミレニアム懸賞問題:2000年にアメリカのクレイ数学研究所によって発表された、100万ドルの懸賞金がかけられている数学の重要な7つの問題のこと
※ 受賞者、ヤマト科学賞選考委員会の所属、肩書は2024年3月5日時点のものです。