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ヤマト科学賞

第3回ヤマト科学賞受賞者の決定について

本賞は、2013年9月にヤマト科学創立125周年を記念してライフサイエンス、マテリアルサイエンス、インフォメーションサイエンス及びそれらの融合分野を中心に、独創性、創造性に富む、気鋭の研究者を顕彰し、人類に夢と希望をもたらす科学技術の次世代リーダーとしての活躍を支援することを目的として設立されました。

第3回ヤマト科学賞は、昨年9月1日から11月30日までの3ヶ月間に公募を行い、ヤマト科学賞選考委員会にて厳正かつ公正な審査を行いました結果、ウェアラブル、ユビキタスコンピューティングを社会に展開するために必要なIoT基盤技術の開発を行い、世界をリードする成果を挙げられている東京大学大学院 川原圭博(かわはら よしひろ)氏を受賞者に決定し、ヤマト科学の創業記念日である3月4日に東京大学 先端科学技術研究センター内で記者会見を行い発表致しました。

授賞式は本年4月、受賞記念講演は11月に執り行います。

委員長 ヤマト科学株式会社 代表取締役社長
文部科学省 科学技術・学術審議会 専門委員
森川 智
委員 東京大学 アイソトープ総合センター長
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
児玉 龍彦
委員 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 理事長
東京大学 教授
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 議員
橋本 和仁
委員 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
廣瀬 通孝

記者会見の様子

記者会見の様子

記者会見の様子

受賞者紹介


川原 圭博(かわはら よしひろ)
東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授
1977年8月18日生まれ(38歳)

受賞理由

情報科学の分野で、最近急速に注目を集めつつあるキーワードのひとつがIoT(Internet of Things)である。これは実世界に存在するさまざまな「もの」がインターネットという巨大な情報処理メディアに接続され、従来不可能だったさまざまなサービスを可能にする技術の全体を指し、現実世界と情報世界をつなぐ技術として大きな期待が持たれている。

IoTを実現するためには、実空間に配置される安価かつ洗練されたセンサを実現するデバイス技術が必要なことはもちろん、それらが生み出す情報の流れを統御するシステム技術も必要である。つまりIoTは、デバイスとシステムという2つのかなり異なった技術を融合してはじめて成就する技術なのである。

川原圭博氏はIoT、ユビキタスコンピューティング分野において、センサからシステムまでを垂直的に統合できる数少ない研究者として現在最も注目を集めている。川原氏は、スマートフォンをセンサとして用い、人の行動・状態をモニタリング可能にする技術を基軸とし、モバイルセンシング、ウェアラブルコンピューティングの研究を展開してきた。近年ではウェアラブル、ユビキタスコンピューティングを社会に展開するために必要なIoT基盤技術の開発を行い、世界をリードする成果を挙げている。通常、システム技術は、いわゆる上部構造の議論が中心であり、センサなどの下部構造にまで議論を含めることが少ないが、川原氏の場合、システムとして都合の良いセンサまでを含めた全体最適化を行おうという方法論をとっているところが他に例を見ない業績といえる。

川原氏の代表的な業績の1つにマルチホップ型無線電力伝送の研究があげられる。これは複数の共振器の共振条件を制御することにより空間中でエネルギーの伝送経路を自在に操る技術を構築する研究であり、これにより非接触充電において送受信の機器間に間隙がある場合にも高効率で電力の伝送が可能になった。 さらに近年、家庭用プリンタを用いたフレキシブル回路作成手法の考案と紙ベースセンサによる低価格センサネットワークの実現の研究を行なった。熱焼結が不要な銀ナノインクを家庭用インクジェットプリンタで印刷することで柔軟な電子回路を実装する技術であり、この成果によって廉価なプリンタを用いることで安価に大量のセンサを誰もが作成できるようになった。

これらの成果は、IoTやユビキタスコンピューティングの社会実装を図る上での二大問題である、電力問題とセンサコスト問題を、デバイスの観点からではなく、システム設計の観点から解決するものである。同氏の方法論は、システムのさらに上部に構築されるソフトウェア世界との接続を容易にし、さらには応用プログラムへと連続することを可能にするであろう。本研究はIoT・ユビキタスコンピューティングの社会への実展開すなわち、スマート社会の実現に向けての非常に大きなイノベーションの可能性を拓き、日本が同分野で世界をリードすることを可能にする画期的な意義を持つものである。

学歴

2000年 東京大学工学部 電子情報工学科 卒業
2002年 東京大学大学院 工学系研究科 修士課程修了
2005年 東京大学大学院 情報理工学系研究科 博士課程修了
博士(情報理工学)取得

職歴

2011年 - 2013年 ジョージア工科大学 客員研究員およびMIT Media Lab 客員教員 兼任
2013年 - 現在 東京大学大学院 情報理工学系研究科 准教授(現職)
2014年 AgIC株式会社 技術アドバイザー
2014年 JST さきがけ研究員
2015年 株式会社SenSprout 技術アドバイザー

※受賞者、ヤマト科学賞選考委員会の所属及び肩書は2016年3月時点のものです。