ヤマト科学賞選考委員会は、このたび「第6回ヤマト科学賞」の受賞者を決定致しました。
本賞は、ヤマト科学創業125周年を記念してライフサイエンス、マテリアルサイエンス、インフォメーションサイエンス及びそれらの融合分野を中心に、独創性、創造性に富む、気鋭の研究者を顕彰し、人類に夢と希望をもたらす科学技術の次世代リーダーとしての活躍を支援することを目的として2013年9月に設立され2014年3月に「第1回ヤマト科学賞」を発表致しました。
「第6回ヤマト科学賞」は昨年8月から11月末までの4ヵ月間に多数のご応募をいただき、ヤマト科学賞選考委員会にて厳正かつ公正な審査を行いました。その結果、長年存在の確証が得られていなかった「マヨラナ粒子」を世界で初めて実証するとともに、量子情報分野で注目される「トポロジカル量子コンピューター」への応用に繋がる重要な成果をもたらした 京都大学大学院 理学研究科 准教授 笠原 裕一(かさはら ゆういち)氏を受賞者に決定致しました。
授賞式は本年4月17日(水)ヤマト科学株式会社本社にて、受賞記念講演は別途11月に執り行います。
委員長 | ヤマト科学株式会社 代表取締役社長 | 森川 智 |
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委員 | 東京大学先端科学技術研究センター がん・代謝プロジェクトリーダー |
児玉 龍彦 |
委員 | 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 理事長 東京大学 教授 内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 議員 |
橋本 和仁 |
委員 | 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 |
廣瀬 通孝 |
記者会見の様子
笠原 裕一(かさはら ゆういち)氏
京都大学大学院 理学研究科 准教授
1981年3月23日生まれ(37歳)
1999年 | 神奈川県立追浜高等学校 卒業 |
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2003年 | 東京理科大学 理工学部 卒業 |
2005年 | 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 修士課程修了 |
2008年 | 京都大学大学院 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 博士課程修了(理学博士) |
2008年 - 2010年 | 東北大学金属材料研究所 助教 |
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2010年 - 2014年 | 東京大学大学院 工学系研究科 量子相エレクトロニクス研究センター 助教 |
2014年 - 現在 | 京都大学大学院 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 准教授 |
2010年 |
井上科学振興財団 第27回(2010年度) 井上研究奨励賞 |
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2011年 | JPSJ Papers of Editor’s choice |
2018年 | 日本物理学会 第12回領域7 若手奨励賞 |
笠原 裕一氏は、大学院生時代から超伝導、界面電子系などの研究に携わってきたが、平成26年に京都大学准教授に着任してからは量子スピン液体、人工超格子、近藤絶縁体などの広い物性物理分野に研究を展開している。そのような中で最近になり、磁性絶縁体において熱ホール効果が量子力学で規定される普遍的な値を取る物理現象、いわゆる「熱量子ホール効果」を発見した。これは理論的予言から80年以上もその存在の確証が得られていなかった「幻の粒子」である「マヨラナ粒子」を世界で初めて実証することに成功したものであり、物性物理学を含む物理学の諸分野において重要な意義を持つだけでなく、量子情報などの分野への波及効果も期待される。
マヨラナ粒子は1937年にイタリアの物理学者エットーレ・マヨラナが理論的に存在を予測した、粒子と反粒子が同一となる粒子(正確にはフェルミ粒子)である。「幽霊粒子」と呼ばれるニュートリノの正体ともされるが、素粒子としてはその存在は確認されていない。しかし近年、マヨラナ粒子がある種の超伝導体や磁性体で現れる可能性が指摘され、世界中で盛んに探索が行われている。そのようななか、笠原氏は磁性絶縁体の研究に取り組み、マヨラナ粒子が存在することの決定的な証拠を与える熱量子ホール効果の観測に成功した(Nature, 2018, Phys. Rev. Lett., 2018)。ホール効果の量子化現象として、ノーベル賞の対象となった二次元電子系における整数・分数量子ホール効果が知られているが、電気を流さない絶縁体における量子ホール効果は前例がなく、「第3の量子ホール効果」の発見であると言える。以上の成果の重要性はマヨラナ粒子の実証だけに留まらない。固体中で実現するマヨラナ粒子が注目を集める理由の1つに、環境ノイズに対して強く量子情報を安定に保つことができる「トポロジカル量子コンピューター」への応用があり、世界的な開発競争に一石を投じるものと言える。
以上の研究は新聞等で多数報道され、さらにクラリベイト・アナリティクス(旧トムソン・ロイター)社による高被引用論文にも選出されている。また、笠原氏は国内外の多くの学術会議から招待講演を依頼されており国際的にも高く評価されていることは明らかである。マヨラナ粒子の発見という彼の研究業績は歴史的に極めて重要な成果であるといえる。
※受賞者、ヤマト科学賞選考委員会の所属、肩書および年齢は2019年3月19日時点のものです。