ヤマト科学は1889年(明治22年)の創業以来、理科学機器・試験研究設備・分析計測機器・産業試験検査機器・医療機器のメーカーとして、また、研究開発全般及びものづくり・生産技術に必要な高度先端機器を取り扱う商社として、積極的な事業展開を図ってまいりました。
今後も「科学技術の進歩・発展のために」という経営理念の下、世界に類を見ない高齢化先進国の日本からグローバルに発信できる研究開発の発展に貢献すべく、ヤマト科学創業125周年を記念し、ライフサイエンス、マテリアルサイエンス、インフォメーションサイエンス等の分野を中心に、独創性、創造性に富む、気鋭の研究者を顕彰し、人類に夢と希望をもたらす科学技術の次世代リーダーとしての活躍を支援することを目的として、2013年9月に「ヤマト科学賞」を創設しました。
選考は下記の通り、各分野を代表する研究者による選考委員会を設置して、昨年来、自薦、他薦による数多くの応募者の中から選考を行い、このたび第1回ヤマト科学賞の受賞者を決定いたしました。
授賞式は本年5月15日に日本橋三井ホールにて開催し、本賞(賞状および賞牌)および副賞(報奨金100万円)が授与されます。
委員長 | ヤマト科学株式会社 代表取締役社長 文部科学省 科学技術・学術審議会 専門委員 |
森川 智 |
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委員 | 東京大学 アイソトープ総合センター長 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 |
児玉 龍彦 |
委員 | 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 理事長 東京大学 教授 内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 議員 |
橋本 和仁 |
委員 | 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 |
廣瀬 通孝 |
内田 健一(うちだ けんいち)氏
東北大学金属材料研究所 助教
内田健一氏は、熱の流れ(熱流)により磁気の流れ(スピン流)が生成される新しい物理現象「スピンゼーベック効果」を発見し、現在世界中で研究されているスピン流熱物理の原点を創った。同氏は更に、スピンゼーベック効果の技術を拡張することで新たな領域の形成に繋がるインパクトの大きな研究成果を次々と挙げ、世界的にみてもスピントロニクス分野において大きな存在感を示しています。
近年、スピントロニクスという新しい分野が注目されている。スピントロ二クス分野では、電子が有する電荷の自由度に加えて、磁気の源であるスピンの自由度も積極的に利用することで、電荷のみを用いていたエレクトロニクスでは現れなかった新しい機能や特性を創出することを目的としている。すなわち、現在のエレクトロニクスは電子の電荷の流れである電流によって機能しているのに対し、スピントロニクスでは磁気の流れである「スピン流」によって機能する。スピン流を用いれば磁場を介さない磁化の制御やこれに基づく情報の書き込み・読み出し技術を実現でき、原理的には低損失な量子情報伝送も可能になると期待されていることから、世界中で盛んにスピン流物性の開拓が行われている。
内田氏の最も重要な成果は、スピンゼーベック効果の発見 (Nature, 2008)である。熱から電流を生成する現象は熱電効果と呼ばれており、その代表例が1820年代にドイツのトーマス・ゼーベックによって発見されたゼーベック効果である。スピンゼーベック効果は「スピン流版のゼーベック効果」であり、この効果を用いることで熱流によるスピン流生成が初めて可能になった。スピンゼーベック効果は同氏が大学の卒業研究時に発見した現象であり、学部生の卒業研究の成果がNature誌に掲載されることは世界的に見ても殆ど例がなく、新聞等で多数報道された。さらに内田氏は、スピンゼーベック効果の原理・技術を応用することで、絶縁体のスピン流伝導の発見 (Nature, 2010)、絶縁体を用いた熱電変換の実現 (Nature Materials, 2010)、音波注入によるスピン流生成現象の発見 (Nature Materials, 2011)、スピンゼーベック効果を用いた塗布型熱電変換素子の開発 (Nature Materials, 2012)、表面スピン波伝搬を用いた熱輸送現象の観測 (Nature Materials, 2013) 等の成果を次々と報告しており、これらはいずれも近年のスピントロニクス研究を代表する仕事として高く評価されている。以上の研究に対する国際的評価の高さは、若干28歳の内田氏が国内外の多くの学術会議から講演招待されていることからも明らかであり、スピン流の全く新しい生成法を確立した彼の研究業績は歴史的に見ても極めて重要な成果であります。
2008年3月 | 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 卒業 |
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2009年9月 | 慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻 修士課程修了 (指導教官:齊藤英治専任講師, 的場正憲教授) |
2012年3月 | 東北大学大学院理学研究科物理学専攻 博士課程修了 博士(理学)取得 (指導教官:齊藤英治教授) |
March, 2008 | B. Eng., Keio University, Japan |
September, 2009 | M. Sc. Eng., Keio University, Japan |
March, 2012 | Ph.D. (Physics), Tohoku University, Japan |
2012年4月 - 現在 | 東北大学金属材料研究所 助教 (現職) |
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2012年10月 - 現在 | 科学技術振興機構 さきがけ研究者(兼任) |
April, 2012 - present | Assistant Professor, Institute for Materials Research, Tohoku University |
October, 2012 - present | PRESTO Researcher, Japan Science and Technology Agency |
2013年12月 | 井上研究奨励賞(井上科学振興財団) |
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2013年12月 | 凝縮系科学賞 |
2013年10月 | 泉萩会奨励賞(泉萩会) |
2013年7月 | 原田研究奨励賞(本多記念会) |
2013年5月 | インテリジェント・コスモス奨励賞(インテリジェント・コスモス学術振興財団) |
2013年4月 | 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞(文部科学省) |
2013年4月 | 船井研究奨励賞(船井情報科学振興財団) |
2012年7月 | 先端技術大賞 文部科学大臣賞(最優秀賞)(フジサンケイビジネスアイ) |
2012年6月 | 安藤博記念学術奨励賞(安藤研究所) |
※受賞者、ヤマト科学賞選考委員会の所属及び肩書は2014年3月時点のものです。