文字サイズ

ヤマト科学賞

2021年03月04日 第8回ヤマト科学賞受賞者の決定について

ヤマト科学賞選考委員会は、このたび「第8回ヤマト科学賞」の受賞者を決定致しました。

本賞は、ヤマト科学創業125周年を記念してライフサイエンス、マテリアルサイエンス、インフォメーションサイエンス及びそれらの融合分野を中心に、独創性、創造性に富む、気鋭の研究者を顕彰し、人類に夢と希望をもたらす科学技術の次世代リーダーとしての活躍を支援することを目的として2013年9月に設立され2014年3月に「第1回ヤマト科学賞」を発表致しました。

「第8回ヤマト科学賞」は昨年8月から11月末までの4ヵ月間に多数のご応募をいただき、ヤマト科学賞選考委員会にて厳正かつ公正な審査を行いました。その結果、画像内容を説明する画像キャプション文の生成を世界に先駆けて実現し、コンピュータビジョン分野と自然言語処理分野を融合させる「ビジョン&ランゲージ」と呼ばれる融合分野を開拓した オムロン サイニックエックス株式会社 牛久 祥孝(うしく よしたか)氏を受賞者に決定致しました。

授賞式は本年4月21日(水)ヤマト科学株式会社本社にて、受賞記念講演は別途11月に執り行います。

委員長 ヤマト科学株式会社 代表取締役社長 森川 智
委員 東京大学 先端科学技術研究センター
がん・代謝プロジェクトリーダー
児玉 龍彦
委員 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 理事長
東京大学 総長特別参与・教授
橋本 和仁
委員 東京大学 先端科学技術研究センター
サービスVRプロジェクトリーダー
廣瀬 通孝

 

記者会見はオンライン形式にて開催いたしました。

受賞者紹介


牛久 祥孝(うしく よしたか) 
オムロン サイニックエックス株式会社 Principal Investigator
株式会社Ridge-i 取締役 Chief Research Officer

学歴

2009年 東京大学工学部機械情報工学科 卒業
2011年 東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 修士課程修了
2014年 東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 博士課程修了 博士(情報理工学)

職歴

2013年4月 - 2014年3月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2013年6月 - 2013年8月 Microsoft Research Redmond Intern
2014年4月 - 2016年3月 日本電信電話株式会社 コミュニケーション科学基礎研究所 研究員
2016年4月 - 2018年9月  東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 講師
2016年9月 - 現在 国立研究開発法人産業技術総合研究所 協力研究員
2016年12月 - 2018年9月 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立国語研究所 共同研究員
2018年4月 - 2018年9月 オムロン サイニックエックス株式会社 Technical Advisor
2018年10月 - 現在 オムロン サイニックエックス株式会社 Principal Investigator
2019年1月 - 現在 株式会社Ridge-i 取締役 Chief Research Officer
2020年4月 - 現在 津田塾大学 非常勤講師

受賞

2010年 研究奨励賞. 電子情報通信学会パターン認識・マルチメディア理解研究会 (PRMU).
2011年 インタラクティブセッション賞. 画像の認識理解シンポジウム (MIRU2011).
2011年 Special Prize on the Best Application of a Theoretical Framework. ACM Multimedia Grand Challenge.
2017年 Honorable Mention. ACM Multimedia Open Source Software Competition.
2017年 NVIDIA Pioneering Research Awards for Asymmetric Tri-training for unsupervised domain adaptation.
2018年 NVIDIA Pioneering Research Awards for Neural 3D Mesh Renderer.
2018年 ベストオーサー. 《特集A1》画像・動画キャプション生成. 映像情報メディア学会誌.
2019年 インタラクティブセッション賞. 画像の認識理解シンポジウム (MIRU2019).

受賞理由

 牛久祥孝氏は、深層学習による第3次人工知能(AI)ブームが起きる直前から、コンピュータビジョン分野と、自然言語処理分野を融合させる研究に取り組み始めた。すなわち、入力された画像に何が写っているかのラベルを出力するだけの従前の画像認識から脱却し、画像の内容を説明する文を生成する画像キャプション生成を世界に先駆けて実現した。従前の枠組みでは、それぞれの事物の有無はわかってもそれらの関係性は依然として不明である。牛久氏は画像内の事物とその関係性を文法的に正しく繋いで記述するモデルを提案し、「ビジョン&ランゲージ」と呼ばれる融合分野を切り開いた。

 牛久氏が画像キャプション生成を始めた直後から、画像や自然言語などの複数モダリティの情報を理解したり変換したりする「ビジョン&ランゲージ」と呼ばれる研究が進展し、牛久氏は画像キャプション生成にける基本的なフレームワークを作り上げた。そのような先進的な取り組みから、牛久氏はマルチメディア分野でのトップ会議であるACM Multimedia 2011ではSpecial Prize on the Best Application of a Theoretical Frameworkを受賞している。

 現在、牛久氏はこうした「ビジョン&ランゲージ」の研究をさらに拡張し、多様なモダリティのデータを組み合わせてデータを理解・認識・予測する研究を推進している。例えば、画像と自然言語(質問文)を同時に入力として受け付けて解答を識別するマルチモーダル識別技術の開発、可視光線と赤外線を組み合わせた暗所・悪天候下での物体検出技術の開発など、その取り組みは多岐にわたる。

 牛久氏は機械学習の基礎的な研究についても継続的に取り組んでおり、大規模な画像データセットを用いた画像認識技術の開発などでは、国際コンペティションで優秀な成績を収めている。近年では大規模なデータを必要とする深層学習でいかに少ないデータでも目標となる精度を達成できるかという課題に取り組み、転移学習や少数データ学習手法を提案、NVIDIA Pioneering Research Awardsなどの受賞に至っている。

 以上要するに、牛久氏は機械学習の基礎的な観点からマルチモーダルなデータへの応用までの一連の研究成果を有する人材である。こうしたマルチモーダルなデータの理解は、生命科学や材料科学の研究開発をデータ駆動で遂行する際にも大きな役割を果たすものと期待される。従って、第8回ヤマト科学賞に推薦するものである。

※受賞者、ヤマト科学賞選考委員会の所属、肩書は2021年3月4日時点のものです。