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ヤマト科学賞

第7回ヤマト科学賞受賞者の決定について


≫ 第7回ヤマト科学賞 受賞者


太田 禎生(おおた さだお)
東京大学 先端科学技術研究センター 准教授
(35歳)

学歴

2007年 東京大学大学院 総合文化研究科 修士入学(中退)
2013年 カリフォルニア大学バークレー校大学院 機械工学科 修了(工学博士)

職歴

2014年 - 2015年 東京大学大学院 理学系研究科 助教
2014年 - 2015年 日本学術振興会さきがけ 兼任研究者
2015年 - 2018年 日本学術振興会さきがけ 専任研究者、東京大学 工学系研究科 客員研究員
2016年 シンクサイト株式会社 創業
2018年 - 現在 東京大学 先端科学技術研究センター 准教授

受賞

2009年 MicroTAS2009 Widmer young researcher賞
2011年 Block Grant賞(UC Berkeley優秀学生賞)
2014年 日本光学会OPJ(Optics and Photonics Japan)、ベストプレゼンテーション賞
2016年 生物物理学会若手奨励賞
2018年 日本学術振興会さきがけ1細胞領域「イノベーション賞」
2019年 船井情報科学振興財団「船井学術賞」
ドイツ・イノベーション・アワード「ゴッドフリード・ワグネル賞」
丸文財団「丸文研究奨励賞」
文部科学省科学技術・学術政策研究所「ナイスステップな研究者2019」
2020年 京都SMI中辻賞

受賞理由

 人間の体は、数十兆個の細胞からなる。その仕組みを見る生命計測技術は、たくさんのデータをとるため、半導体などの微細加工技術や、コンピューターの演算能力、膨大な情報を伝える通信技術の進歩も大きく変わっている。ヒトの全ゲノムを数日で読む次世代シークエンサーや、複雑な複合体の3次元像をとらえるクライオ電顕など急速に進んでいる。かつては、日本の技術はキャピラリーのシークエンサーや、電顕では世界の先端をいっていたが、微細加工や、情報技術や、通信システムを統合していくことに遅れをとってしまった。

 太田禎生氏は、東京大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で、生命計測への光学の応用を学び、情報科学、通信科学との融合を志した。従来、形態観察に基づく細胞の分類、分離・分取は白血病発見で知られるウィルヒョウ博士以来100年以上、人の経験と認識力に基づいて行われてきたが、そのスピード・細胞の数、精度には限界があった。

 太田氏は、帰国後、異なる専門領域の若手研究者を組織化し、その研究グループは、高速・高感度かつシンプルに細胞形態データを圧縮計測する単一画素イメージング法に、機械学習と流体ハードウェアを融合する技術を確立した。大きさも同じで人の目で見ても形の似た細胞でさえも高速・高精度に分析・判別し、その細胞を超高速(従来の顕微鏡方式比で千倍以上)で分取するシステムである高速蛍光イメージングセルソーターを世界で初めて実現し、その成果をサイエンス誌にゴーストサイトメトリーの名で発表した。機械の「目」を使い、毎秒数千〜万細胞のスピードで細胞をリアルタイムに判別し、選択的に取り分け、大量の細胞を形態で評価し、選別し、活用する技術は、血液・体液診断、再生医療や細胞治療など高い安全性や信頼性の求められる医療に貢献することが期待されると、東大、阪大の発表文書でも述べている。

 同時に、太田氏は、アカデミアや組織の枠を越えてベンチャー企業のCTOとしてその創設にかかわり、産学連携で、国際的な実用化に成功した。博士などの専門人材が活躍できる産業や市場を、研究者自らが主体的に作り上げようとしている点も画期的であり、従来の専門領域の深化だけでなく、オープンイノベーションのための、新しい領域の創生を目指す若手研究者を応援するヤマト科学賞にふさわしい成果といえ、ここに太田禎生氏を第7回ヤマト科学賞に推薦するものである。

※受賞者の所属、肩書および年齢は2020年3月18日時点のものです。