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ヤマト科学賞

2026年03月06日 第13回ヤマト科学賞受賞者の決定について


≫ 第13回ヤマト科学賞 受賞者


澤田 健(さわだ たけし)
東京大学大学院医学系研究科 助教
1993年2月生まれ(33歳)

【受賞タイトル】

「シナプス操作法の開発とシナプスによる脳の生理機能制御機構の発見」

【受賞理由】

 ヒトの脳のネットワークを形成する兆単位のシナプスは、学習・記憶・睡眠といった生理機能に応じて絶えず動的に再構築されている。精神疾患においては、シナプス構造の異常が多く報告されており、ゲノム研究からも、疾患リスク遺伝子の多くがシナプス関連分子に集中していることも明らかになってきた。これらの知見は、シナプスが脳機能の根幹を担う構造であることを示唆する。しかしながら、生理的・病態的に生じる様々なシナプス変化が、具体的に脳機能にどのような影響を与えているかは依然として殆ど解明されていない。

 澤田健氏は、新規技術開発と応用を通して一貫して、シナプスというミクロ構造の変化と、脳機能・個体行動の変化というマクロな現象を結び付ける研究を推進してきた。まず、光学的な神経活動の記録・操作技術の組み合わせた新規手法を活用し、D2受容体がシナプス可塑性を制御し、これがあいまいな記憶を現実に即して精緻化していく学習過程(弁別学習)の基盤となることを明らかにした。(Iino, Sawada et al., Nature 2020 共同筆頭著者) 。

 澤田氏は、人工的にシナプス増強を誘導する分子ツール SynK を開発し、前頭葉興奮性細胞で作用させることで、マウスにノンレム睡眠が誘導されることを見出した。この知見を起点として、筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構、理研・脳神経科学研究センターとの共同研究の結果、「覚醒中に前頭葉シナプス増強が蓄積⇒ノンレム睡眠誘導⇒睡眠中にシナプスが減弱⇒覚醒に復帰」という、シナプス可塑性に基づく睡眠制御の恒常性機構を明らかにした(Sawada et al., Science 2024;)。本研究は、長年の未解明であった「ねむけ」を蓄積し睡眠を制御する神経基盤として、前頭葉シナプスの役割を因果的に示した。

 今後、シナプスを特異的に標識・操作するツールセットのさらなる拡張を進めることで、従来の脳領域・神経細胞レベルの解像度の機能解析を超え、脳発達・学習・睡眠や認知機能に関連したシナプス可塑性の変化を通じたシナプス機能を因果的に探索する新しい研究領域を推進していくことを期待して、第13回ヤマト科学賞を授与する。

【受賞者経歴】
(学歴)

2017年 東京大学 医学部医学科 卒業 医師免許取得
2021年 東京大学大学院 医学系研究科 博士課程修了 博士(医学)

(職歴)

2018年4月-2021年3月 日本学術振興会 特別研究員 DC1
2021年4月-2021年6月 東京大学大学院医学系研究科 構造生理学部門 特任助教
2021年7月-現在 東京大学大学院医学系研究科 MD研究者育成プログラム 助教
2022年4月-現在 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 客員研究員

(受賞)

2016年 大坪鉄門フェローシップ(東京大学)
2019年 日本神経科学学会Travel Award(日本神経科学学会)
2019年 SfN Travel Award(日本神経科学学会)
2020年 時実利彦記念神経科学優秀博士研究賞(日本神経科学学会)
2021年 BIO-UTポスター優秀発表賞(東京大学生命科学シンポジウム)
2023年 井上研究奨励賞(井上科学振興財団)


※受賞者の所属、肩書および年齢は2026年3月5日時点のものです。