ヤマト科学賞選考委員会は、このたび「第12回ヤマト科学賞」の受賞者を決定致しました。
本賞は、ヤマト科学創業125周年を記念してライフサイエンス、マテリアルサイエンス、インフォメーションサイエンス及びそれらの融合分野を中心に、独創性、創造性に富む、気鋭の研究者を顕彰し、人類に夢と希望をもたらす科学技術の次世代リーダーとしての活躍を支援することを目的として2013年9月に設立され2014年3月に「第1回ヤマト科学賞」を発表致しました。
「第12回ヤマト科学賞」は昨年8月から11月末までの4ヵ月間に多数のご応募をいただき、ヤマト科学賞選考委員会にて厳正かつ公正な審査を行いました。その結果、東京大学 生産技術研究所 物質・環境系部門 講師 塚本 孝政
(つかもと たかまさ)氏を受賞者に決定致しました。
委員長 | ヤマト科学株式会社 代表取締役社長 | 森川 智 |
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委員 | 東京大学 先端科学技術研究センター がん・代謝プロジェクトリーダー |
児玉 龍彦 |
委員 | 国立研究開発法人 科学技術振興機構 理事長 | 橋本 和仁 |
委員 | 東京大学 先端科学技術研究センター サービスVRプロジェクトリーダー 東京大学名誉教授 |
廣瀬 通孝 |
記者会見はヤマト科学本社にて開催いたしました。
(写真左から橋本委員、森川委員長)
塚本 孝政(つかもと たかまさ)氏
東京大学 生産技術研究所 物質・環境系部門 講師
1988年11月生まれ(36歳)
「革新的鋳型合成法と高次周期表理論によるクラスター科学の新展開」
塚本孝政氏は、錯体化学、高分子化学、光化学、触媒化学、量子化学、理論化学など、さまざまな化学分野での実績を積んできた新進気鋭の研究者である。近年、これらの知見を融合した分野横断的な手法により、次世代材料の候補とされるクラスター物質の新たな化学的性質や物理法則を、実験と理論の双方から解明することに成功し、大きな注目を集めている。以下に同氏の研究成果を紹介する。
クラスター物質とは、数個から数十個の原子で構成され、直径約1ナノメートルに達する微小な物質群であり、顕著な量子サイズ効果に基づく特有の性質を有する。通常、原子レベルの精度を要求されるため、長らく汎用的な合成法の確立は困難であった。しかし、塚本氏は高分子ナノカプセルを反応場として活用する独自の「鋳型合成法」を開発し、ほぼ全元素を統一的に利用可能なクラスター物質の基盤的合成技術を確立した(Acc. Chem. Res., 2021)。
加えて、同手法を用いて、一粒子内に多数の元素を混合した多元合金クラスターの合成を世界で初めて達成(Nat. Commun., 2018)し、実際に合成したクラスター物質を用いて、特殊な電子状態や発光機能を示す固有の物理現象(J. Am. Chem. Soc., 2020)や、高活性・高選択的な触媒機能を生み出す特殊な化学反応性(Angew. Chem. Int. Ed., 2020)を実験的に明らかにした。さらに、塚本氏は、2ナノメートルに達するより大きなクラスター物質にも適用可能な合成手法の拡張にも成功し(Angew. Chem. Int. Ed., 2022)、クラスター物質のさらなる機能化や産業化を目指した取り組みを進めている。
また、塚本氏は計算機化学と群論を組み合わせることで、クラスター物質の電子状態を予測する新たな理論モデル「対称適合軌道モデル」を開発した。このモデルに基づき、クラスター物質の電子状態や物性の背後に周期律が存在することを見いだし、原子(元素)の周期表と同様の考え方でクラスター物質を分類・探索できる「高次周期表」の理論を世界で初めて提唱した(Nat. Commun., 2019)。さらに、原子配列に特殊な数列を内在するクラスター物質が、異常なエネルギーの縮退状態を持つ「超縮退物質」となることを理論的に発見している(Nat. Commun., 2018)。これは、数学、素粒子物理学、量子力学などで知られる「力学的対称性」に由来する現象であり、見かけ上、化学物質が球体をも超える高い対称性を示す(Nat. Rev. Chem., 2021)。この発見は、「化学構造に内在する数理的要素が物性を決定する」という未知の現象の存在を示すと同時に、「化学物質の電子的性質はその幾何学的構造によって決まり、最高の球対称(原子)を超えることはない」という定説を覆すもので、教科書を改訂するほどのインパクトを持つといえる。
これらの研究成果は、塚本氏が分野横断的に実験と理論の双方から多角的に検討した結果である。同氏の研究は、Nature Reviews誌をはじめ複数の国際誌でハイライトされるなど学術的に高く評価され、さらに国内外で多数のメディアに報じられるなど社会的関心も非常に高い。今後は、学術面でのさらなる発展に加え、低コストかつユビキタスな元素を用いた「希少元素の代替技術」など、応用面での展開も期待される。以上の理由により、第12回ヤマト科学賞を授与する。
2011年 | 首都大学東京 都市環境学部 都市環境学科 卒業 |
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2013年 | 首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 分子応用化学域 修士課程修了 |
2015年 | 首都大学東京 大学院都市環境科学研究科 分子応用化学域 博士課程修了 (短縮) 博士(工学)取得 |
2014年-2014年 | University of Miami, Department of Chemistry Visiting Scholar |
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2014年-2015年 | 日本学術振興会 特別研究員DC2 |
2015年-2016年 | 日本学術振興会 特別研究員PD |
2015年-2016年 | 東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 博士研究員 |
2016年-2018年 | 東京工業大学 科学技術創成研究院 ハイブリッドマテリアル研究ユニット 研究員 |
2018年-2019年 | 東京工業大学 科学技術創成研究院 ハイブリッドマテリアル研究ユニット 特任助教 |
2019年-2023年 | 東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 助教 |
2023年-2024年 | 東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 特定講師 (兼任) |
2020年-2025年 | 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究者 |
2023年- 現在 | 東京大学 生産技術研究所 物質・環境系部門 講師 |
2023年- 現在 | 東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻 講師 (兼任) |
2024年- 現在 | 東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所 特定講師 (兼任) |
2024年- 現在 | 東京大学 東京大学卓越研究員 (兼任) |
2013年 | Most Impressive Presenter賞 (首都大学東京) |
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2013年 | 学術振興基金賞(日本粘土学会) |
2020年 | 大隅良典基礎研究支援受賞(東京工業大学) |
2021年 | 若い世代の特別講演会賞(日本化学会) |
2021年 | 手島精一記念研究賞 若手研究賞(東京工業大学) |
2021年 | Nanoscale Horizons Award(ナノ学会, The Royal Society of Chemistry) |
2021年 | IIRウィーク優秀発表賞(東京工業大学) |
2022年 | 新世代研究所研究奨励賞(新世代研究所) |
2023年 | 第72回進歩賞(日本化学会) |
2024年 | 令和6年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞(文部科学省) |
2024年 | Nanoscale 2024 Emerging Investigator(The Royal Society of Chemistry) |
2024年 | 第13回 新化学技術研究奨励賞(新化学技術推進協会) |
2024年 | 令和6年度 東京大学卓越研究員(東京大学) |
※受賞者、ヤマト科学賞選考委員会の所属、肩書は2025年3月10日時点のものです。