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Q&A

FT-IRとは?

更新日:2021年09月13日

FT-IRについて

FT-IRとは、フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)の略で、サンプルに赤外光を照射して得られる測定結果より、未知のサンプルがどの程度入っているのか(定量)、どのような組成なのか(定性)、評価することが出来ます。さらに、目的に応じたアクセサリを使用することで、固体(フィルム、粉体、など)、液体、気体など様々な形状のサンプルを測定することが可能です。FT-IRは、10µm程度の小さな異物解析、研究開発での構造解析、確認試験、品質管理など、非常に幅広い分野で用いられています。

干渉計

次にFT-IRについて説明します。FT-IRの中には干渉計と呼ばれる装置が組み込まれています。赤外光源から干渉計の中に発せられた赤外光はビームスプリッタにより固定された鏡と移動する鏡側の2つに分離されます。固定鏡は移動せず、移動鏡のみが移動しており、両方の鏡でそれぞれ反射した光が戻ってきて合成されます。この合成された光は、移動鏡の移動距離に応じて光の位相差が生じた干渉波(インターフェログラム)であり、この干渉波をサンプルに照射させて検出器で検知します。

 

FT-IRの内部構造

ここでFT-IRの構造を見てみましょう。FT-IRは主に赤外光源、干渉計、レーザ、検出器で構成されています。装置内部で採用されている窓材が高湿度では曇ってしまう可能性がありますので、密閉構造である必要があります。非常にコンパクトな構造になっていますので、小さいものでは10kg程度しかありません。

FT-IRによる測定結果

FT-IRの測定でどのような結果が得られるのでしょうか?一般的には、インターフェログラムをフーリエ変換することで、横軸が波数4000~400cm-1、縦軸は吸光度の連続データが得られます。これをIRスペクトルと呼びます。例えば、メチル基「-CH3」、カルボニル基「C=O」などの官能基は、それぞれ特定の波数の光だけを吸収するので、吸光度のピークが得られます。したがって、IRスペクトル上で、どの波数にピークが出るのかを確認することで、構造式を推測することが出来ます。
例えば、下図は電子基板に付着したオイル状の異物のIRスペクトル(赤色)です。IRスペクトルから、このオイル状の異物は、「-CH3」、「-CH2-」、「C=O」など、様々な官能基を持つことが分かります。しかし、これだけでは、ではこのデータから、どのような方法で定性するのでしょうか?それにはライブラリサーチが有効です。

FT-IRで出来ること

FT-IRではライブラリと呼ばれるデータベースから、類似したIRスペクトルを探し出すことが出来ます。このような操作をライブラリサーチと呼びます。このライブラリサーチの結果、紫色のフタル酸エステルのIRスペクトルとのヒット率が97.3と、非常に高い結果が得られました。したがって、このオイル状の異物はフタル酸エステルであると推定が出来ます。ライブラリにはポリマー、食品添加物、有機溶剤、など様々な種類がありますので、目的に応じて使い分ける必要があります。

FT-IRで定性出来るものを下記にまとめました。

1)有機化合物:樹脂、ゴム、紙、プラスチック、繊維、布、接着剤、など。
2)一部の無機化合物:硫黄化合物、リン化合物、シリコン化合物、炭酸塩、など。
* FT-IRでは金属元素を測定することが出来ません。

測定方法

FT-IRにはサンプルと目的に応じて、様々な測定法がありアクセサリを選ぶことで測定することが可能です。ここで様々な測定方法を紹介します。

透過法:最も基本的な測定方法で、入射光I0と透過光Iの強度の比率から吸光スペクトルを求めることができます。フィルムはセルに挟みこんで測定できます。液体の場合に同様にセルに挟んで測定します。粉末の場合には、赤外に不活性な臭化カリウム(KBr)をメノウ乳鉢で十分にすりつぶして、錠剤成形機で錠剤を作製ます。その後、錠剤を専用のセルに挟み込んで測定します。これをKBr錠剤法と言います。また、ガスセルを用いればガスの定性・定量が可能です。

ATR法ATR(Attenuated Total Reflection)とはFT-IRで用いられる測定手法の1つで、全反射法とも呼ばれます。ATR法ではダイヤモンドやゲルマニウムのような測定対象サンプルよりも高い屈折率を有するクリスタルとサンプルを密着させて赤外光を入射します。その際、エバネッセント波という微量の赤外光が測定対象に滲み込んで反射する全反射光を測定することで、試料表層部の吸収スペクトルを得ることが出来ます。滲み込み深さは数um程ですが、この滲み込み深さには波数依存性があり、入射角、クリスタルの屈折率、試料の屈折率によって変化します。フィルム、液体、粉末などの試料を前処理なく測定可能なため、汎用的測定手法として用いられています。

ATRアクセサリを用いることで、粉末、液体、フィルム、など様々な形状のサンプルが測定できます。クリスタルプレート上にクリスタルが埋め込まれており、このクリスタルに測定するサンプルを密着させると、クリスタル表面からサンプル側にわずかに滲みこんで反射することで、サンプル表面の定性が可能です。測定するサンプルの種類によって、クリスタルをダイヤモンド、ゲルマニウムなどを選択する必要があります。

またATRには、加熱型、観察型(1回反射/多重反射)、フローセルなどがあります。

赤外顕微鏡

対象が目に見えないほどの大きさの場合には、FT-IRに赤外顕微鏡を取り付けて測定することが望ましいです(顕微IR)。画面で測定視野を探して測定することが可能です。さらに測定エリア選択してオートステージを用いることでマッピングやイメージング測定を高速で行うことも可能です。FT-IRが赤外顕微鏡と一体型のものもあります。

アプリケーション事例集

≫ フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)アプリケーション事例集

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