文字サイズ

株式会社GKインダストリアルデザイン[津曲 兼利 様]

「GFシリーズヒュームフード」のデザインからヤマト科学のアイデンティティを世界中に伝えたい。

ヤマト科学の技術力を結集して誕生した「GFシリーズヒュームフード」。そのデザインを手がけたのが、日本の工業デザインをリードしてきたGKインダストリアルデザイン。日本人なら誰もが一度は目にしたこともあるはずの卓上醤油瓶のデザインから、有名企業のCI(Corporate Identity)、モーターサイクルや秋田新幹線「こまち」のデザインに至るまで、数々の優れた工業デザインを世に生み出してきたデザイン界の雄がヒュームフードの意匠に込めた思いとは…
― 2017年11月6日

「GFシリーズヒュームフード」のデザインからヤマト科学のアイデンティティを世界中に伝えたい。

ヤマト科学の技術力を結集して誕生した「GFシリーズヒュームフード」。そのデザインを手がけたのが、日本の工業デザインをリードしてきたGKインダストリアルデザイン。日本人なら誰もが一度は目にしたこともあるはずの卓上醤油瓶のデザインから、有名企業のCI(Corporate Identity)、モーターサイクルや秋田新幹線「こまち」のデザインに至るまで、数々の優れた工業デザインを世に生み出してきたデザイン界の雄がヒュームフードの意匠に込めた思いとは…
― 2017年11月6日

デザイナーが果たす役割とは素直に製品と向かい合うこと

「ヒュームフード」という実験設備のお話をいただき、はじめて科学実験の分野を知ることになりました。はじめは何をするための物なのかよくわからず、医療機器や実験設備が登場するドラマを見ることからはじめました。(笑)

デザインするうえで、製品のことを詳しく研究することはとても重要なことです。しかし、製品のことを深く知り過ぎてしまうことで、かえって設計する側や製造する側に迎合したデザインになってしまうこともあります。特に一般消費者向けの商品とは異なる分野ですから、新しい考えを取り入れることに躊躇しがちで、視野も狭くなってしまっています。業界の常識を知らないからこそ、素直に「わからない」と言える客観的な立場でアイデアを出すことが、私たちデザイナーが果たすべき役割だと思っています。

研究者に寄りそうデザイン創意工夫と開発秘話

ヒュームフードのデザインを検討している中で、これはひとつの製品であると同時に景観でもあると考えました。つまり、研究所内に複数台が並んで設置された光景や、間口の広いもの、狭いもの、高いもの、低いものさまざまなサイズのヒュームフードが並んだ様子を想像して、その佇まいが美しく見えるようにデザインすることが重要だと感じました。そして、他社の実験機器類と並んだ中でもヤマト科学のデザインフォームが伝わるように、意匠には非常にこだわりました。それは、さまざまな実験環境の中でも製品の意匠自体がヤマト科学としてのアイコンの役割を果たし、ヤマト科学ブランドを主張できるからです。
また、ヒュームフードの特性上、使う環境や使う人にとっても清潔さが求められることを念頭に置いて、クリーンで明るいカラーリング、安心が伝わる造形となるようデザインし、安全状態を視覚で確認できるLEDステータスモニターなど、数々の創意工夫も取り入れました。

従来製品とは異なるアイデンティティスローピング型前面サッシ

新しいヒュームフードをデザインするうえでの課題は「箱からどう脱却できるか」でした。狭い研究室に垂直でそそり立つ箱をつくってしまうことで、圧迫感がより強くなってしまいます。そこで圧迫感を軽減するために、全体を印象づける意匠として、製品全体に緩やかなラウンドを設けることをご提案しました。そして、その意匠により前面サッシには傾斜をつけることにもなり、わずか4度ですが、その傾斜があることで研究者がより自然な姿勢で実験作業を行えることになり、操作性、視認性が改善し、作業効率が向上すると考えました。
結果として、ラウンド形状の意匠により、従来製品からは得られなかった柔らかい印象に仕上がったと思います。そこには女性研究者の視点も取り入れましたし、その上で意匠と機能性をマッチさせて、使う人に優しい工夫を随所にちりばめました。
その反面、デザインの実現にあたり、実はスチール部材の曲面加工は非常に難しいことから、難色を示すような意見が製造現場から上がってくるのではないかと心配していましたが、美しい曲線の支柱を作っていただいたことで、最初にイメージしたデザインが実現出来、改めてヤマト科学の技術力の高さに驚きを覚えました。

密度の濃いコミュニケーションからモノ作りにかける熱い情熱が生まれた

開発・製造に係わったヤマト科学のメンバー

GKデザインは、これまで油圧ショベルや印刷機といった大型産業機械から、医療器械などの精密機器のデザインを手がけてきました。これらは一般消費者が足を踏み入れることのない世界で、流行やトレンドはほとんど存在しません。今回のヒュームフードのような実験設備は色や形といったトレンドをこちらから提案できる分野だと感じました。そして、研究者の視点でデザインされたものが機能すれば、自ずと業界内で高く評価されていくものだと信じています。
この度、ヤマト科学の開発チームから多くの要望や指摘をしっかりと伝えていただいたおかげで、デザインに説得力が生まれたと思います。こちらが一方的に先導して製品化するやり方もあるとは思いますが、意見交換しながら製品化出来たことの意義は素晴らしく、私どもも大変喜ばしく思っています。約1年半にわたる長い開発期間でしたが、それに見合うだけの密度の濃いコミュケーションが出来、それはモノ作りの素晴らしさを実感した期間でもありましたし、GKインダストリアルデザインとしてもたいへん達成感のあるプロジェクトとなりました。