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製品情報

製品詳細

近赤外光線免疫療法研究用 光活性試薬 薬物リンカー複合体

Ax-SiPc NHS Ester Infrared Dye

型式:Ax-SiPc NHS Ester Infrared Dye

ADC: 抗体-Ax-SiPcの調製方法

反応溶液組成と薬物抗体比(DAR)

in vitro実験例 ― 細胞毒性アッセイ

近赤外光線免疫療法研究用 光活性試薬 薬物リンカー複合体(Ax-SiPc NHS Ester Infrared Dye)

  • 近赤外光線免疫療法研究用 光活性試薬 薬物リンカー複合体(Ax-SiPc NHS Ester Infrared Dye)

製品概要

近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)研究を手軽に

近赤外光線免疫療法研究用 光活性試薬 薬物リンカー複合体(Ax-SiPc NHS Ester Infrared Dye)の特徴

近赤外光を吸収して、細胞傷害性の高い一重項酸素を発生させます。

Ax-SiPcは、東京大学先端科学技術研究センター・大学院薬学系研究科の設計・合成技術により、NIR-PIT用に開発された光増感剤です。ケイ素に配位したフタロシアニン環を持ち、近赤外光を吸収して細胞傷害性の高い一重項酸素を発生させます。

「生体の窓」といわれる波長域の近赤外光を使うので、組織の深部まで一重項酸素の産生を誘導しやすい。

生体に多く含まれる水やヘモグロビンは近赤外光線(特に波長範囲650-1000 nm)をあまり吸収しません。そのため近赤外光線は比較的 体の深部まで届きやすく、この波長域は【 生体の窓 】と呼ばれます。 また、近赤外光はそれ自身で生体/細胞毒性を示すこともありません。Ax-SiPcは近赤外光(650-700 nm)照射により効率的に励起されますので、生体投与後に体外から近赤外域のレーザー光やLED光を照射することで、体表面あるいは表層に近い体内部まで一重項酸素の産生を誘導できます。

光照射によって初めて薬剤効果が現れます。

Ax-SiPcは、抗体を介して細胞膜に結合しても、それ自身ではほとんど細胞毒性を示しません。生体内で肝臓などの生理的代謝臓器/排泄臓器に集積しても、近赤外線で光励起されない限り一重項酸素を産生しませんので、過剰投与による副作用は低く抑えることができます。

NHSエステル基を有していますので、ご希望の抗体とインキュベートするだけで抗体薬物複合体(ADC)を調製できます。

Ax-SiPcのリンカーのNHSエステル基は、タンパク質にとってマイルドな条件下(pH 7.2-9; 室温~4℃)で、タンパク質中の第一級アミノ基と反応し、安定したアミド結合を形成します。精製用にサイズ排除クロマトグラフィー以外、調製に特別なデバイスを必要としません。

≫Ax-SiPcの詳細についてはこちら(外部サイトにリンクします)

関連製品(下記アイコンをクリックしてください)


近赤外光照射光源



利用例


本製品と組み合わせてADCの機能が確認された抗体
抗HER2抗体(トラスツズマブ; 商品名「ハーセプチン®」)
抗FGFR4抗体



ADC: 抗体-Ax-SiPc複合体の調製方法
<ご用意いただくもの>

  • ・抗体
  • ・無水DMSO
  • ・リン酸バッファ(pH 8.0)
  • ・PBS
  • サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラム(PD SpinTrap/Mini-trap G-25, Cytiva など)
  • ・スターラー/ミキサー
  • ・マイクロチューブ

  • (細胞や動物を用いた実験に使用する場合は)
    ・孔径0.22 µm以下のシリンジフィルタ




(1) Ax-SiPc NHSエステル(NHS-Ax-SiPc)溶液の準備


NHS-Ax-SiPcに無水DMSOを加え完全に溶解します(扱いやすい目安濃度: 2.5 mM)。



(2) 抗体溶液の準備


Ax-SiPc修飾したい抗体を準備します。抗体溶液中の添加剤等が反応に影響を及ぼすことがありますので、リン酸バッファー(pH 8.0※1)で平衡化したSECカラムを用いて、精製・溶媒置換します。


※1 Ax-SiPcは酸性環境下で不安定ですので、反応中もADC調製後も pHが酸性に傾かないようにご注意ください。



(3) 抗体へのAx-SiPcの修飾


抗体溶液とNHS-Ax-SiPc 溶液とをしっかり混和し、遮光してインキュベートします。リンカーのNHS基と抗体中のNH2基(主にリシン残基のNH2基)との架橋反応により、抗体-Ax-SiPc複合体が得られます 。
室温での反応の場合は、撹拌しつつ 2-4時間を目安にインキュベーションを行ってください。
反応溶液の組成は、「反応溶液組成と薬物抗体比」のグラフを参考にしてください。



(4) 抗体-Ax-SiPcの精製


未反応の(NHS-)Ax-SiPcを除去するために、PBSで平衡化したSECカラムで精製します。
1回のSEC精製では完全に未反応の(NHS-)Ax-SiPcを除去しきれないことがあります。カラムへの非特異的吸着による回収量の低下が支障ないようでしたら、2回精製をお奨めいたします。
細胞や動物を用いた基礎実験に使用する場合には、さらに 0.22 µm以下のフィルターでろ過滅菌も行います。



【 使い切らなかったNHS-Ax-SiPc溶液(DMSO)の保存について 】
・・・ 1回の調製で使い切らなかった場合、溶液での保存は推奨いたしませんが(できればエバポレーター等でDMSOを除いて保存)、使用分量ずつ小分けし遮光して冷凍保存が可能です。

【 すぐに使用しない抗体-Ax-SiPc複合体溶液(PBS)の保存について 】
・・・ (1) 冷凍保存(凍結解凍サイクルは5回まで)、 (2) 4℃保存(1 カ月以内)のいずれかで保存してください。いずれも遮光は必要です。



≫ エバポレーターに関してはこちらから




薬物抗体比の定量
抗体1分子に(平均)何個の薬物が結合しているかを示す薬物抗体比(DAR)は、ADCの物性や効果、動態に影響を及ぼす※2値です。抗体-Ax-SiPc複合体を調製したら、都度 DARを測定しましょう。

※2:一般的にDARが大きいほど、ADCの薬剤効果は高くなる傾向があります。しかし多くの薬剤が結合することで、ADCの物性は元の抗体の物性から 薬剤の物性に近い性質へと変化することがあります。(抗体よりも)疎水性の高いAx-SiPcが多く結合することで、凝集が起こりやすくなったり、精製工程の回収率が低下する可能性があります。



<ご用意いただくもの>

  • ・吸光度を測定できる装置 (分光光度計 など)
  • ・PBS
  • ・タンパク質濃度の定量用試薬 (ブラッドフォード試薬 など)
  • ・マイクロチューブ



(1) 抗体-Ax-SiPc複合体サンプルのAx-SiPc濃度測定


精製した複合体サンプルをPBSで適宜希釈し、波長673 nmでの吸光度 A673を測定します。
A673を下の式に当てはめて、サンプルの Ax-SiPc濃度 CSiPcを見積もります。

CSiPc = A673÷ℓ÷ε


  •   CSiPc: Ax-SiPc濃度 (M)
  •   A673: 抗体-Ax-SiPc複合体サンプルの吸光度 (λ=673 nm)
  •     : 光路長 (cm)
  •      ε : Ax-SiPc NHSエステルのモル吸光係数 (145,000 L mol-1 cm-1※3)

※3Ax-SiPcNHSエステルはPBS (水)中では正しくεを測定しにくいため、DMSO:PBS=7:1 の溶媒中での測定値を適用します;
Axially Substituted Silicon Phthalocyanine Payloads for Antibody–Drug Conjugates”, K. Takahashi et al., Synlett (2021) 32: 1098-1103. supporting information (https://doi.org/10.1055/a-1503-6425) S22-23 記載 compound 1のε.


(2) 抗体-Ax-SiPc複合体サンプルの抗体濃度測定


精製した複合体サンプルの 抗体濃度をブラッドフォード法などで測定し、抗体モル濃度 Cabを計算します。



(3) DARの計算


(1)(2)でもとめたCSiPcとCabを下の式にあてはめてDARを計算します。



DAR= CSiPc ÷ Cab



≫ 分光光度計に関してはこちらから




in vitro実験例【 細胞毒性アッセイ 】
<ご用意いただくもの>

  • ・抗体-Ax-SiPc複合体溶液(PBS)
  • ・培養細胞
  • ・細胞培養培地
  • ・PBS
  • ・生細胞数測定試薬 (Cell counting kit-8, Dojindoなど)
  • ・96-well 細胞培養プレート
  • ・マイクロチューブ
  • CO2インキュベータ
  • ・近赤外光照射光源 {光パワーメーターを用いて光の強度を測定し、照射時間を計算しておきます(光量の目安: 100 J/cm2)}
  • ・プレートリーダー
  • (↓あると便利です)
  • ・マルチチャンネルピペット、ピペッティングリザーバー、アスピレーター用8連吸引ノズル



    (1) 培養細胞のプレーティング


    抗体-Ax-SiPc複合体を投与する培養細胞を96-well培養プレート上に播種し、CO2インキュベーター(37℃; 5% CO2)内で一晩 培養します。



    (2) 抗体-Ax-SiPc複合体の添加


    段階希釈により目的濃度に調製した抗体-Ax-SiPc複合体溶液を、細胞を播種したwellに添加し、CO2インキュベーター内でインキュベートします(~24時間)。



    (3) 未結合 抗体-Ax-SiPc複合体の除去


    細胞に結合しなかった抗体-Ax-SiPc複合体を含む培地をアスピレーターで吸引除去し、wellをPBSで洗った後、新しい培地を添加します。



    (4) 近赤外光照射


    96-wellプレートの底面から近赤外光を照射します(光量の目安: 100 J/cm2)。



    (5) 細胞のインキュベーション


    96-wellプレートをCO2インキュベーター内に戻して、インキュベートします(~24時間)。



    (6) 生存率の測定


    生細胞測定試薬を用いて細胞生存率を測定し、近赤外光照射あり/なしでの細胞傷害性を評価します。



    ≫CO2インキュベーターに関してはこちらから
    ≫近赤外光照射光源に関してはこちらから
    ≫プレートリーダーに関してはこちらから



    文献


    K. Takahashi, A. Sugiyama, K. Ohkubo, T. Tatsumi, T. Kodama, K. Yamatsugu, & M. Kanai, "Axially Substituted Silicon Phthalocyanine Payloads for Antibody–Drug Conjugates", Synlett 32 (2021) 1098-1103.


    東京大学大学院薬学系研究科の高橋らは、ガン細胞を標的とした抗体へとAx-SiPc NHSエステルを化学的に結合させ、in vitro系において抗体-Ax-SiPcを作用させたガン細胞を近赤外光照射することで、一重項酸素を発生させてガン細胞の光傷害を誘導するのに成功しています。

主な仕様

仕様


型式 Ax-SiPc NHS Ester Infrared Dye
化学式/分子式 C80H114N16O19S3Si3(Et3NH含む) 
平均分子量 (g/mol) 1,740
外観/物理的状態(20℃) 固体
外観 深青色、無臭
最大吸収波長 673 nm (in DMSO)
モル吸光係数 (M-1cm-1) 146,000 (in DMSO)
一重項酸素量子収率 0.40
溶解性 DMSO:可溶
水/アセトニトリル混合溶媒:可溶
推奨用途 近赤外光線免疫療法の研究
保管条件 容器を密閉し、-20℃で遮光して保存
メーカー サヴィッド・セラピューティックス株式会社(Savid Therapeutics Inc.)外部サイトへリンクします



FAQ

Q 抗体を結合させることで、Ax-SiPcの光化学特性は変化しますか。
A

Ax-SiPcと抗体-Ax-Si複合体とでは溶解性(DMSO/水)が異なるため直接の比較は難しいですが、抗体と結合させることで最大励起波長やモル吸光係数、量子収率が影響される可能性はあります。調製した抗体-Ax-SiPc複合体でご希望通りの効果が得られない場合、電気泳動パターンやDAR値の測定によるAx-SiPc修飾のご確認に加え、吸光スペクトル測定などによりご使用になられた近赤外光の波長が適切かのご確認もお勧めいたします。

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Q 動物に投与した場合、標的の細胞に結合しなかった抗体-Ax-SiPc複合体が動物に影響することはありませんか。
A

標的の細胞に結合しなかった抗体-Ax-SiPc複合体は生理的代謝器官である肝臓などに蓄積する傾向はありますが、 抗体-Ax-SiPc複合体自身の細胞毒性は極めて低いです。また光照射を行わない限り一重項酸素も発生しません。 言い換えますと、生体投与後に光照射によって領域限定的に標的細胞への傷害性を誘起させる場合、肝臓等を近赤外光から保護していただくことが大切となります。

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Q 薬物抗体比(DAR)の高い抗体-Ax-SiPc複合体ほど効果的ですか。
A

多数のAx-SiPcで修飾された抗体ほど、光照射時の細胞傷害効果は高い傾向がありますが、DARの高い抗体-Ax-SiPc複合体が必ずしも実験に適するとは限りません。NHSエステルを利用した修飾反応では、Ax-SiPcは抗体(中の主にリジン残基)にランダムに結合するため、抗体の抗原への結合親和力に影響を及ぼす可能性があります。また、SiPcは疎水性が高いために、1つの抗体に多数のAx-SiPcが結合すると、抗体-Ax-SiPc複合体は水に溶けにくく凝集しやすくなります。凝集してしまった複合体は実験には使用できませんので、凝集が見られる場合には、調製時の (抗体):(NHS-Ax-SiPc)モル比の再検討をお願いします。
抗体-Ax-SiPc複合体の凝集の程度や安定性は、サイズ排除クロマトグラフィーカラムを搭載したHPLC(SEC-HPLC)での溶出パターン計測(UV: 254 nm)でも確認できます。
 

≫ HPLCに関してはこちらから

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Q Ax-SiPcを扱う上で注意点はありますか。
A

Ax-SiPcは光に対して繊細ですので、遮光して保存してください。また酸性環境下では不安定ですので、水溶液中にある場合には 緩衝液のpHにはお気をつけください。

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Q 滅菌作業は必要ありますか。
A

抗体-Ax-SiPc複合体を細胞や動物を用いた基礎実験に使用する場合、投与前に必ずろ過滅菌(孔径 0.22 µm以下のフィルター)を行ってください。

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Q 精製した抗体-Ax-SiPc複合体は冷凍保存できますか。
A

冷凍保存可能です。トラスツズマブと結合させた抗体-Ax-SiPc複合体(PBS中)は、5回の凍結解凍サイクルを繰り返してもほとんど分解も凝集もしなかったことが、SEC-HPLCスペクトル分析により示されています。また4℃下でも1カ月以上 安定していました。
Takahashi et al. Synlett 2021; 32(11): 1098-1103. DOI: 10.1055/a-1503-6425

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Q Ax-SiPcはIRDye®700DXと同じように扱えますか。
A

Ax-SiPcはIRDye®700DXと同様に扱うことができます。ただし、細胞傷害機序は異なり、主として一重項酸素の産生によるものと推測されておりますので、性能はお確かめください。

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